3.2 ダークカウントとその補正

1.ダークカウントとは

   市販の小型冷却CCDカメラでは、冷却温度がせいぜい−50℃程度までしか下がらず、
 CCDのピクセル内で熱電子が発生し、天体から入射した光子による電子と混ざってしまう。
 つまり、ライトフレームは熱電子によるノイズが乗ってしまう(ダークカウント)。
 そこで、この熱雑音だけのダークフレームを得て、ライトフレームから引き去る必要が生じる。

 なお、ダークに関係して、冷却温度の安定性は1℃以内であれば過度に気にする必要はない。
 例えば、ST-9CCDカメラで−20℃における暗電流生成レートDr[e-/sec/pixel]は0.48個
 これが1℃上がり-19℃になると0.503個である。100秒露出するとその差は電子2個分なの
 でカウント数にすると1違うだけである。0.1%精度の測光を狙うためには普通1000000カウント
 以上を稼ぐので、仮に星像が100ピクセルあれば100カウントの違いにあり、等級差で0.0001等
 の誤差しか生じない。安心して欲しい。
 -100℃以下に冷却できるCCDカメラの場合は、ほとんどダークノイズは発生しないのでバイ
 アスの引き去りだけでよい

2.ダークフレームの取得

 ダークフレームは、
 (1)補正対象のライトフレームと同じ条件、つまり同温度かつ同一露出時間で得なければ
    ならない。
 (2)また、多数のダークフレームを撮り、それらから1枚のマスターフレームを得て、ダーク
   補正に使う。
 (3)必ずしも、観測ごとに毎晩ダークをとる必要はなさそうである。ピントやゴミの位置が
   影響するフラットよりも、温度だけの関数であるダークの再現性はずっと良いためである。

 熱雑音は確率的に発生するものであるし、その上カウント数が低いものなので、高精度の
 ダークフレームを得るには多数のダークフレームから統計処理でS/N比を上げる必要が
 ある。
 また、ライトフレームと同一露出時間で得るダークフレームには、必ずといってよいほど宇宙線
 イベントが含まれており、大きなノイズ源となるため、これを除去するためにも複数のダークフ
 レームを使う必要がある

 1枚のダークフレームのある1つのピクセルの値が nカウントだとすると、その値に含まれる
 誤差(標準偏差)は√nである。S/N比で表せば、n/√n = √n である。
 従って、1%精度(S/N比100)のダークフレームを得ようと思えば、10000/n 枚のダークフ
レームを取得しなければならない。
 しかし、低温の場合はnが小さいので、それを実現するのは大変過ぎるので、現実的には
10枚から100枚程度のダークフレームを撮ることで妥協することが多い。

 ダークフレームをいつ取得するかも問題である。理想的には、目的のライトフレームの前後
に同一温度同一露出時間で得るのがよいが、それでは貴重な観測時間がもったいない。
そこで、観測時にはダークフレームは取得しないで、一連の観測の前後に同一温度同一露出
時間で数十枚のダークフレームを取得するのが現実的である。

3.マスターダークフレームの作成

 多数枚のダークフレームが得られたら、それからマスターフレームを得る。
その方法は、中央値(メディアン)処理を用いる。
ダークフレームは、特に露出時間が長いほどたくさんの宇宙線イベントが写る。これを取り除くに
は、平均値処理では不十分なので、メディアンを使う。

4.補正

  ダークのマスターフレームが得られたら、ライトフレームからダークマスターフレームを引き算
するだけでよい。

5.補遺 ダークについて


ダークの主な原因は、CCDのシリコン中で熱のために発生する電子である。
ここでは、ダークと温度の関係を知ろう。
温度T[K]における暗電流生成レートDr[e-/sec/pixel]は次式で計算できる。

Dr=2.55x10^15*P_s*D_fm*T^1.5*exp(-E_g/2kT)

ここで、P_sはピクセルの面積[cm-2]、
    D_fmは300[K]における暗電流性能指数"dark current figure of merit"で、
     単位は[nA/cm^2]、
     kはボルツマン定数で8.62x10^-5 [eV/K]
     E_gはシリコンのバンドギャップエネルギー[eV]で次式で計算できる。

  E_g=1.1557- (7.021x10^-4*T^2)/(1108+T)


<実例 1>
 次の温度におけるCCDの暗電流を計算する。
-10℃(=263K),-50℃(=223K),-100℃(=173K)。
ただし、CCDのピクセルサイズは12[μm]、D_fm=10[pA/cm^2]とする。

まず、各温度におけるバンドギャップエネルギーを求める。

 E_g = 1.1557- (7.021x10^-4*263^2)/(1108+263)
  = 1.120278 eV at 363K
 E_g = 1.129468 eV at 223K
 E_g = 1.139296 eV at 173K

12μmのピクセルサイズの面積は1.44x10^-6 [cm^2]であるから、
暗電流生成レートは

 Dr = 2.55x10^15*1.44x10^-6*10^-2*263^1.5*exp(-1.12/(2*8.62x10^-5*263))
   = 2.911 [e-/pixel/sec] at 263K  ((0.993))
 Dr = 2.123x10^-2 [e-/pixel/sec] at 223K ((5.92x10^-3))
 Dr = 2.149x10^-6 [e-/pixel/sec] at 173K ((4.07^-7))

(以上の出典は"Scientific Charge-Cuppled Devices" by Janesick, 2001, SPIE Press,p.622
であるが、実例1の計算がどうしても合わない!私の計算では(())内の数字になる。
E_gの計算は合っているのに、Drが合わない。なぜだろうか。
私の計算がどこか間違っているのか、それともミスプリか?←しかし3つの温度で系統的に
ずれているようなので、単なるミスプリではなさそうだ。

<実例2>
 SBIG ST-9XEの-35℃における暗電流生成レートを求める。

  ST-9XEのピクセルサイズは20[μm]つまり 4x10^-6 [cm-2]
        D_fm=7[pA/cm^2]=7x10^-3[nA/cm^2]
        T=238Kなので

 E_g = 1.1557- (7.021x10^-4*238^2)/(1108+238)
   = 1.1262 e-/pixel/sec at 238K
 Dr = 2.55x10^15*4x10^-6*7x10^-3*238^1.5*exp(-1.13/(2*8.62x10^-5*238))
   = [e-/pixel/sec] at 238K

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