1.1.3 なぜそんなことが −表面照射型CCDの問題点−

 以上のような結果は、これまできれいな天体画像を得ようと慎重にピント合
わせを行ってきた人からすると、あまりに以外な結果と写るかもしれない。

  しかし、CCDの構造を考えてみると十分に納得のできる現象です。
  小型冷却CCDカメラに使われているCCDチップの多くは、表面(おもてめん)
照射型と呼ばれるものです。このタイプのCCDは、天体からの光を、各ピクセ
ルに電圧を加えるための電極と配線がある側から受ける構造になっている。
(下図は単純化したモデルです)
  そのため、同じ1ピクセル内であっても、場所によっては透明でない電極や
配線によって減光される(しかも短波長の光ほど減衰が大きい)ので、結果的
に1ピクセル内であっても、感度や分光感度特性の均一性が大きく失われる。

表面照射型CCDの構造 
  
     光Aは、シリコン基板に直接に当たるので、効率よく検出される
     光Bは、電極部を通過した後に、シリコン基板に当たる
     光Cは、配線部+電極部を通過後に、シリコン基板に当たる
     光Dは、配線部通過後に、シリコン基板に当たる
     
  こうして、CCDのピクセル中心では感度が下がっていることが理解できる。
  従って、短焦点でシャープな星像を持つ光学系を利用する場合、つまり1ピクセル
のサイズに較べて星像の方が小さい場合は、ピクセル内の星像の位置によって感
度(と分光特性)が著しく異なり、大きく測光精度が損なわれることがわかる。

その実例として、脇義文さんの Webページを紹介します。

脇さんの観測では、Vバンドで正確にピントを合わせた結果、Vバンドのばら
つきが一番大きくなり、屈折レンズの色収差で星像が大きくなったBとRでは
逆に測光精度が上がっていることがわかります。
(なお、焦点距離が10m近い大きな望遠鏡では、シーイングのために星像が大
きくなり、ピントを合わした状態で適当なサイズの星像になります。)

と、書いてきましたが、

新たな疑問

が出てきました。実際のCCDチップ(KAF-0261E)の構造はこのページの
最初の図のようにはなっていません
でした。
下の図は、コダックのWebサイトにあるPDFファイルから取ってきたものに手を
加えたものですが、感度の最も悪そうな部分(断面図で電極同士が重なって
いる部分)は中央を真横に横切っています。決して、部屋の中央に鎮座する
掘り炬燵のようにピクセルの中央にあるのではないようです。
  また、どうやらこのチップでは裸でSi基板が見えている部分はなく、すべて
電極で覆われているようです。配線部はどのように実装されているのかは不
明です。
  実際のピクセル構造を示す電子顕微鏡写真で確かめるのが一番ですが、
探しましたが、適当なものが見つかりませんでした。

KAF0261Eのピクセル構造

このような構造だと、先に1.1.3で示したような感度ムラにはピクセルの方向
と関係がありそうな気がします。そこで、感度の方向性の有無を調べるために
星像の重心位置のX座標と感度ムラの関係、Y座標と感度ムラの関係を、同じ
データから調べてみました。が、方向性ははっきりせず、むしろ単にピクセル中
心からの距離だけに依存する
という先の結論を再確認する結果になりました。
 CCDの構造から考えると不思議な気がしますですが、

   1.1.3の結論は、観測結果なので確かな事実

として受け入れざるを得ません。


TOPへ戻る