1.4      明るい星の測光観測-Photon Limited Photometry-

  目的の星の明るさによって、観測計画上の注意点は異なる。
この節では「明るい星」の場合について観測方法をまとめる。
「暗い星」の場合は次節で考える。
 なお、「明るい星」とは、 空の明るさに較べて十分なカウント数がある場合で、「暗
い星」とは、空の明るさの影響がかなり効いてくる場合である。何をもって、明るい
暗いとするのか、という定量的な議論は(注)に 書いた。



1.4.1 明るい星の測光観測

  
明るい星を測光する場合は、これまでいろいろと検討してきた事柄を総合して
観測計画を立てる必要がある。 系外惑星の恒星面通過の現象transitを測光的
に捉える観測
などは、この「明るい星」場合の典型例でしょう。

 まず、明るい星の観測には、明るい比較星が必要(1.2.3節)であり、そのため
には、広い視野を持たせる必要がある。つまり、焦点距離は短く、CCDは大面積の
ものが望ましい。ただし、1.2.3節の(5)に追加した ように、暗めの比較星を
多数使うアンサンブル測光という工夫ができる。

 光子数を稼ぐため(1.2.1節)には、口径が大きいのに越したことはな い。もっと
も個人のプロジェクトでは、口径をむやみに大きくできないので、露出時間を伸ばして
光子数を稼ぐしかないが、シーイングの影響(1.2.2節)を考えればこれは望ましいこと
である。

 使用する望遠鏡は、焦点距離が短く口径が大きいもの、つまりF比の小さい明る
いものにして、できるだけ大面積CCDと組み合わせるのが望ましいということになる。
(空の明るさが測光精度を決める「暗い星」の場合は、F値を大きくしてバックグランド
を減らす方がよい)

 ただし、短焦点では、星像サイズと現実的なCCDチップの組み合わせでは、完全
にアンダーサンプリングになるので、焦点を外し星像を大きくする必要がある
(1.1の各節を参照)。
 このテクニックは、CCDをダイナミックレンジの範囲内で光子数を稼ぐためにも有
効である(1.3章)。また、これは口径の大きな望遠鏡で明るい星を観測する場合
に、露出時間を長く維持する上でも有効なテクニックである。


(注) 「明るい星」と「暗い星」とは


1フレームの測定で得られる等級で表した誤差σは

        1.0857*√{N_star*g+n_pix[1+(n_pix/n_sky)]*(N_sky*g+N_dark*g+R^2)}
σ=------------------------------------------------------------------
                                 N_star*g

で表される。(例えば Everett and Howell (2001),PASP, 113,1428)
ここで、
N_starは、アパーチャn_pix[ピクセル]内の星のカウント数(スカイを差し引いた後の値)、
N_sky は、面積n_sky[ピクセル]内のスカイの平均の明るさ[count/pixel]、
g       は、CCDカメラのゲイン[e-/ADU]で、
R      は、読出しノイズのrms[e-]である。
分子にかかっている定数1.0857は、0.1程度以下の真数を等級に変換する場合
の係数である。概数としては、1%(=0.01)の誤差は、0.01等の誤差と思ってよい。

この式の分子の√の中が大きく2つの項に分かれているが、前半の 項N_star*gが、
後半の項の
値より10000倍以上あれば、後半の項は無視できるの で、十 分
「明るい星」にあたる。

また、前半の 項N_starが後半の項の値より100倍以下なら「暗い星」にあた る。
両者の中間にあたる明るさの星を対象にする場合は、両方の注意を考慮して観測
・測定するのがよいでしょう。
 (なお、いずれにしても、測定時にはSkyの面積n_sky[ピクセル]をできるだけ大きく取る
のが測光精度を上げるためには大切であるということも上式に、n_pix/n_skyという
部分が含まれていることからわかる)



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