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BDS-バルマー逓減率測光サーベイ

the Balmer DecrementSurvey

-- Survey of Emission Line Objects with H-alpha and H-beta Filters-- Osamu Ohshima

水素輝線天体におけるバルマー減衰サーベイ計画

大島 修

研究費の一部にH15年度科学研究費補助金(奨励研究)  課題番号15916026を充てています

telescope1.jpg

1.プロジェクトの目的

2.サーベイの概観

3.サーベイシステム

  3.0 システムの概観

  3.1カメラ及び望遠鏡

   3.1.2積分球によるフラットフィールド

   3.1.3カメラレンズの色収差

  3.2自動化に向けて

    3.2.1夜間天候検出      

  3.3サーバ構築

問題意識

近年、国際的にガンマ線バーストや背景星の変光を利用した重力レンズの検出など、突発天体の冷却CCDカメラによるサーベイ的観測が多く実施されるように なり、未解明の現象の観測に成果が上がっている。さらに副産物として多数の変光星が発見されるなど多くの成果をあげている。これらのプロジェクトに共通し た特徴は、より暗い天体を写すために使用するフィルターは広い波長域に渡っている。 今回の計画は、これまで誰も実施していない狭帯域バンドパスを持った 水素のHα輝線による恒星の撮像モニターリング観測である。Hα線は、宇宙で最も普遍的な水素原子が放つ強いスペクトル線であり、 恒星大気の活動や新星など爆発天体においても最も特徴的な変化を示すことが知られている。このHα線でサーベイを行えば、バンド幅が狭いため高いS/N比 でHα線関連現象を検出できる。検出が期待される既知の突発現象・変光天体としては、銀河系内の新星・Be星などの輝線星・フレア星など多くの種類があ る。これらの記録をデータベースに保存しバイアスのかかっていない均一なサンプルを得るが第1の目的である。そのデータから長期間のHαバンドでの変光の 様子や突発天体の出現頻度の統計的議論が可能になる。さらに、副産物として未知のHαフラッシュ現象を検出できる可能性も密かに期待している。

本年度の研究実施計画

今回の計画では、Hα干渉フィルター(中心波長660nm、半値幅12nm)をつけた焦点距離100mmのカメラレンズを小型冷却CCDカメラに取り付け る。中心波長を静止系におけるHα線の波長(656.3nm)から長波長側へ少しずらす。これは、天体の爆発に伴う輝線は地球に接近する側の物質による自 己吸収のため輝線の青側が吸収され、輝線の中心波長が長波長側へシフトすることに対応するためである(波長660nmは、既製品のバンドパス干渉フィル ターは10nm毎であるため、Hα線をカバーする最も近い波長)。バンドパスが比較的広いのは、比較星として利用する通常の恒星のデータをより大きな信号 で得るためである。できるだけ広い天域をサーベイするために、望遠鏡としては短い焦点距離を使う。 これらの撮像系を、すでに自費開発した自動測光望遠鏡 の赤道義へ同架し、あらかじめプログラムされたスケジュールに従って自動掃天を行う。撮像した画像は、データベース内へ納め、自動で変光の様子を検出す る。これらの一連の処理を行うソフトウェアは自分で開発する。  今年度は、観測システムの製作と一連の観測に必要な露出時間や掃天域の選定なと試験観測を行いながら、プロジェクトを見極め、年度末までに自動観測がなさ れるところまで持って行くことを目標とする。世界的に見ても、これまで冷却CCDカメラによる広範囲の天域のHαモニタリングはなされていないので、これ らの試験観測の過程で得られる知見は貴重な統計的データとなるであろうと予想される。なお、フレアやフラッシュなど再現性のない天体現象を検出する場合の 信頼性を向上させるための工夫として、同一視野に向けた二組の装置を同時に用いて観測したいが、これは予算の関係で次年度以降の検討課題とする。 今回の 申請では、この計画を実行するために必要な費用の内、干渉フィルタの購入とデータ整理用謝金および学会発表用旅費にあてる予定である。 測光バンドと検出限界の見積もり

RバンドフィルターとHα干渉フィルターの2バンドの画像を使う場合

2つのバンドの光量の比較

フィルターの透過曲線の面積を比較すると、R-bandフィルターは202、半値幅12ÅのHαフィルターでは15となる。 面積比で7.4%、等級差に直すと、

-2.5*log(15/202)=2.82 mag

同じ露出時間では、約3等の違いがでる。 ほぼ同じカウント数を稼ぐには、Hαではおよそ13倍の露出時間が必要。

Hα輝線の変動の検出

例として、等価幅10ÅのHα輝線(弱輝線T Tauと古典的T Tauの境目)の検出を考える 半値幅120Åのフィルターを使うとして、Hα輝線が0から100%まで変化する場合

-2.5*log(130/120)=-0.087 mag

の変化になり、測光精度内で十分検出できることがわかる。 検出限界は、測光精度0.03等とすると、等価幅10Åの輝線の1/3以上の変化

Rバンドだと同じ輝線変動に対して

-2.5*log(1630/1620)=-0.0067 mag

の変化しかない。

従って、HαバンドとRバンドの2枚の画像をセットで撮像して Rでは変化が検出できなくて、かつ、 Hαバンドで明るくなった天体は、輝線が変化したためとみなすことができよう。

CCDカメラが2台あれば、HαバンドとRバンドを同時に撮像すれば、短時間のタイムスケールの変化でも検出できるが、 当面は予算の関係で1台のCCDカメラを使い、交互にフィルターを替えて、その1対の撮像に要する時間以上のタイムスケールを持った現象を捉えるしかな い。 (フレアー星のような短時間変動の検出は当面あきらめる)

Hαフィルターの設計

1.Hαフィルターの半値幅   元の波長をλÅ、視線速度をv m/sとすると、ドップラーシフト量⊿λは

    λ=λ・v/c
      =6563*v/3e8=2.19e-5*v

新星の爆発速度v=1000km/s=10^6m/sとして、後退側の出す光は          λ=22Å  だけ red shiftする。        v=2000km/sだと44Åシフト

輝線のFWHMも同様の速度に対応して幅が広がるとすると、フィルターの赤い側のカットオフ波長は6563+44+22=6629Åより長波長側に 伸びていることが望ましい

メモ

マルチキャビティー型干渉フィルター(DIF-BPF)

MIF-W型の金属ハーフ膜をそれぞれ誘電体多層膜に換えた構成のフィルターで、マルチキャビティー型とも呼ばれている。透過率が高く、A・B・C型とは 逆に半値幅が広い全誘電体干渉フィルターのパンドパスフィルターである。1・2・3・4・5型と5タイプあり、順に半値幅が広くなっているので

用途によって使い分けられる。http://www.opto-line.co.jp ※規格寸法:15・20・30・40・50mmφ、50mm□

BPE-2型 最大透過率(%) 中心波長に対する半値幅のおおよその比率(%) 600〜699 ≧70 2.5 660*0.025=16.5nm BPE-3型 660-699 4.7 660*0.047=31nm

干渉フィルターにおける入射角と中心波長シフトの関係

誘電体多層膜の屈折率n=1.2として 入射角10度(視野20度)だと

660*(1-((1.2*1.2-(sin(10))^2)^0.5)/1.2)=6.9nm 同じくn=1.2として 入射角3度(視野6度)だと 660*(1-((1.2*1.2-(sin(3))^2)^0.5)/1.2)=0.63nm n=1.4として 入射角3度だと 660-(660*(1.4*1.4-(sin(3))^2)^0.5)/1.4=0.46nm となる。この程度の長波長側へのシフトを考慮して、中心波長と半値幅を決める必要がある。

冷却CCDカメラ

SBIG社のST-9EXを使うとする

CCDチップ 20μ角 100mmレンズだと1ピクセルあたり  20e-6/(100e-3*3.14)*180*3600=41.27秒角 視野は41.27*512/3600=5.87度

赤道上360度を、70枚でカバーすると、5.14度/フレームになる。 東西方向のオーバーラップは (5.87-5.14)/5.87=12% となる。ST-9XEは、ガイド用CCDのためのミラーのけられがあるので、この値は適当である。

          Decl.	 equi.degree	   NoOfFlame	   deg/flame

0 360.00 70 5.14 2.5 359.66 70 5.14 5 358.63 70 5.12 7.5 356.92 69 5.17 10 354.53 69 5.14 12.5 351.47 68 5.17 15 347.73 68 5.11 17.5 343.34 66 5.20 20 338.29 66 5.13 22.5 332.60 64 5.20 25 326.27 64 5.10 27.5 319.33 62 5.15 30 311.77 62 5.03 32.5 303.62 59 5.15 35 294.90 59 5.00 37.5 285.61 56 5.10 40 275.78 56 4.92 42.5 265.43 52 5.10 45 254.56 52 4.90 47.5 243.22 47 5.17 50 231.41 47 4.92 52.5 219.16 43 5.10 55 206.50 43 4.80 57.5 193.44 38 5.09 60 180.01 38 4.74 62.5 166.24 32 5.19 65 152.15 32 4.75 67.5 137.78 27 5.10 70 123.14 27 4.56 72.5 108.27 21 5.16 75 93.19 21 4.44 77.5 77.93 15 5.20 80 62.53 15 4.17 82.5 47.00 9 5.22 85 31.39 9 3.49 87.5 15.72 3 5.24 90 0.02 3 0.01

                                                 869枚

CCDカメラの視野

 視野中心(Alpha、Delta)における視野の端の座標は、

端1(2.93,2.93),端2(2.93, -2.93),端3(0,-2.93), 端4(-2.93, -2.93),端5(-2.93, 2.93),端6(0,2.93) in Degree に対応する 各座標に対応する方向余弦(X,Y,Z)に対して、 座標軸を Z軸の回りに反時計方向へ(-Alpha)、 Y軸の回りに反時計方向に(-Delta) 回転させた(X',Y',Z')に相当する。

|X'| |X| |Y'|= Ry(-Delta) Rz(-Alpha)|Y| |Z'| |Z|

Drift Scanを使うと 日周運動 赤道で15秒角/秒 1ピクセルに留めるためには 41.27/15=2.75秒間 日周運動で星が512ピクセルを横断する時間は 41.27*512/15=1408秒間 1408/60=23分間 露出3秒、読み出し1秒 保存に3秒とすると 1408*3/7=603秒=10分間露出に相当 200枚 1画面4フレーム3分間かかるとすると 北天半球だけで3*869=2607分=43時間 観測可能なのは1日8時間とすると5。4日

全天の分解能 赤道帯で40秒角=40/15=2.66秒時 2秒時の分解能として 24*60*30=43200 赤緯+60から-30まで90度 90*60*60/30=10800 その空間分割数 43200*10800=466,560,000

今のところの予算

収入 科研費補助金        230,000 小暮先生からの研究支援  300,000 私費            760,000 --------------------------------- 計            1,320,000 支出 フィルター(Hα・Hβ・Hβ用コンティニウム) 260,000 冷却CCDカメラ ST9EX              440,000 フィルターホイル                300,000 自動制御用パソコン               100,000 エンコーダ改造(購入部品)          150,000(エンコーダ+USB開発システム+機械系改造) 赤道儀自動格納庫製作費     300,000? ----------------------------------------------------- 計                      1500,000

その後の進捗状況

6月

小暮先生より示唆をいただいた。Hαに加えてHβも含めるとバルマー減衰を測ることができる。バルマー減衰を大量に測定した例はない。フィルター代を支援 するから、やってみないかというお誘い。確かにバルマー減衰量を測ることができれば、輝線形成のメカニズム推定にとって大きな情報量となる。Hαだけの場 合に比べて効果は大きいと判断し、小暮先生のお申し出をありがたくお受けし、プロジェクト名もthe Balmer DecrementSurveyと変更することにする。

7月上旬

HαHβの干渉フィルター(半値幅10Å)を(株)オプトラインから購入。製作は米国のメーカの様だが、標準品で HαとHβ用のバンドパスフィルターを扱っているところはありがたい(=比較的安価に入手できる)。

7月末

  Hβコンティニウム用バンドパスフィルタを、(株)朝日分光の標準品カタログから選んで購入。Vバンドの特性に近いが、Hβ線を含まないように短波長側をカットしているものを選んだ。さすがにすばる望遠鏡関係の干渉フィルタを製作している会社らしく、標準品では光学性能が撮像用には向かないかもしれないと数回にわたり念押しされる。イメージング用に特注製作を依頼した場合はとても予算内に 収まりそうもないので、「すばる」で使っている会社ということで品質を信頼して、標準品でも大丈夫だろうと判断して発注した。

8月上旬

 以上3種のフィルタを使って、実際の星空をST-7(鴨方高校の備品)でテスト撮像。使用した望遠鏡は、自宅屋上のフリクション赤道儀。3枚の内、Hα フィルタは、非点収差がひどくて撮像には向かないことが判明。HβフィルタはOK。朝日分光製のHβコンティニウム用フィルタはすばらしい星像を示す。 (その後Hαフィルタは半額負担して返却)

9月下旬  SBIG社冷却CCDカメラST-9XE を購入。(この件については、理研木村かおるさんとYerkeysObservatoryのVivian Hoetteさんに大変お世話になりました)

9月28日

 美星天文台の工作室でカメラレンズ取り付けアダプターを製作。キャノンFDマウント->Cマウントアダプターを改造。ST-9XEのTマウントリ ングを取り外し(3点固定用ネジを緩める)、そこにCanonFDマウントを取り付ける

9月29日

 ST-9XEでのファーストライト。その結果は以下のとおり。  左はHβ画像、右はHα画像。  フィルターの非点収差の程度がよくわかる(撮像用に製作されていない分光用フィルターで、あたりが悪いとこうなる)。 Cyg.JPG Result of the Frst Light for ST-9XE Observed on Sept. 28.5(UT), 2003 Lens: Canon NewFD100mm/F2 stopped to f/2.8 CCD : SBIG ST-9XE Temp.: -15.0C deg Exp.Time: 60sec

                                                             Sky-subtracted Raw Counts
 Star Name	      H-beta(Left)	   H-alpha(Right)
   A	 12486	 18472

62 Cyg (V=3.72, B-V=+1.65, K4.5Ib-II) 133956(22976@peakPixel) 727023(54852@peak)

  B	 4099	 11814
  C (~9mag)	 1041	 3302

57 Cyg (V=4.78, B-V=-0.58, B5V) 103885 98037 56 Cyg (V=5.04, B-V=+0.20, A4mDel Del) 66164 87064 60 Cyg (V=5.37, B-V=-0.21, B1Ve) 61158 56037

  Sky	 ~130	 ~320 Data taken from Bright Star Cat. 5th ed.

10月

 分光用に製作されたらしいオプトライン製の干渉フィルターは、上の画像でよくわかるように、撮像用には適していない。 そこでOptec, Inc.製の次のフィルタ セットを発注した。これらは天体撮像用なので星像がもっと改善されるものと期待される。

#17447 Bessell V, 50mm dia., 5mm thick. $250.00
#17448 Bessell R, 50mm dia., 5mm thick. $250.00
#17260 Custom Scientific H-alpha filter, 656.3nm CW/ 3nm BW,50mm dia., 5mm thick. $475.00
#17264 Custom Scientific H-beta filter, 486.1nm CW/ 3nm BW,50mm dia., 5mm thick. $475.00

これを同社製のインテ リジェント・フィルター・ホイールIFWにマウントして100mmレンズの前に置く。 このIFWは、SBIG社のCFW-8 filter wheelと互換性があるのでST-9XEから制御が可能である。 フィルタは5ポジションの設定が可能である。 そこで

 (1) Rバンド(Hαコンティニウムの測定用、色ガラスフィルタ)
 (2) Hα
 (3) Vバンド(Hβコンティニウム、色ガラスフィルタ)
 (4) Hβ
 (5)Hβコンティニウム測定用フィルタ(Hβ線を含まないVバンドに似た波長特性、
    朝日分光製干渉フィルタ)

の順にセットして試用してみようと考えている。

フィルターとカメラレンズの焦点

 レンズ系には色収差があり、特に今回のようにHα線(赤)とHβ線(青)の単色光では色収差による焦点のズレが目立つ。  実際の星を撮像して、フィルターによる焦点の違いを調べた。

フィルターターレットホルダの前面に置いてあるアクリル版は、サンプリングのため3ピクセル以上に星像を悪化させるための「めがね」として試験的に設置したもの。 テストの結果、光学性能が良すぎて星像を悪化させられなかった。

晴天の検出方法

自動観測を目指すなら、晴天か曇雨天かの判断を自動的に検出しなければならない。 ペルチエ素子の可逆反応(ゼーベック効果)を利用し、空と地面に対する放射冷却の違いを検出することにした。 そのための実験はこちら

weather1.jpg

防水BOXに取り付けた天候検出器(右)と雨滴センサー(BOXの屋根上)

weather2.jpg

検出器の内部 PICNIC(秋月電子)を使用して、晴天検出器の出力はPICマイコンの ADコンバータから入力、雨滴センサーの出力はデジタル入力から取り込み 家庭内LANでWebページとして監視できる。

フラットフィールド用積分球の製作

 CCDカメラによる測光の精度向上のためには、良質なフラットフィールドを得ることが重要である。 従来、天文台関係ではドーム内に張ったスクリーンに照明をあててフラットフィールドとする場合が多かっ た。しかし、カメラレンズを使ったこのBDSプロジェクトのように、口径の小さな光学系の場合は、理想的な フラットフィールドを得るには、積分球が適している。

 積分球の既製品の購入は、入手性と価格の面で個人では困難である。しかし、自分で製作すれ ば、コストもかからず、結構良質の積分球を得ることができる。


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