OTO - Ohshima Tamashima Observatory- - FlatFielding Diff
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!3.3 フラットフィールド
天体を写したCCDのライトフレームは、そのままではさまざまな誤差を含んでいて、
とてもそのまま測光するわけにはいかない。
その主な原因をあげると
・ピクセルごとの感度ムラ(極端なピクセルでは、デッドピクセルやホットピクセルとなる)
・光学系の口径食による周辺減光や、ケラレ、メッキムラなどによる大域的な不均一性
・光学系についたホコリやゴミの影(口径比とCCDまでの距離に応じてボケている。
時間的に再現性は期待できない)
・その他
これらの空間的不均一性(ムラ)を一括して補正する方法がフラットフィールド補正である。
!3.3.1.原理
ピクセル位置(x,y)に投影されるべき天球上の真の輝度分布をL_in(x,y) (これを観測
から求めたいのだ)とし、実際のCCDからの出力をL_out(x,y)、 空間的不均一性を一まと
めにして関数 f_f(x,y)で表すと
L_out(x、y)= L_in(x、y) * f_f(x,y) + dark(x,y) + bias(x,y)
であるから、求めるL_in(x,y)は
L_in(x、y)= {L_out(x、y) - dark(x,y) - bias(x,y) }/ f_f(x,y)
で得られる。 bias(x,y)とdark(x,y)は、ダークフレームから得られる(別項参照)。
したがって、現実的な問題は、いかに正確な空間的不均一性関数 f_f(x,y)を求めるかである。
!3.3.2.フラットフィールドの取得方法
理想的なフラットフィールドは、均一な明るい面光源を無限遠に置き、それを
天体撮影時と同時に、同じ光学系で、同じ天球方向で撮像することで得られるが、
これは不可能である。
で、現実にはやむなく以下に述べる方法でフラットフィールドを得る。が、特に広視野撮
像では、どうしても問題が出やすい。
撮像にあたっては、多数枚(10枚から100枚程度)写し、それらからマスターフラット
フレームをメジアン(中央値)か3σ除去平均などで作る。詳しくは3.フラットフィールドの処理を参照
露出の目安は、S/N比を上げるために、カウント数が10000以上で、できるだけCCDの
ダイナミックレンジの上限に近い値となるようにする。
(1)ドームフラット
ドーム内(に限らず、要は望遠鏡の近くという意味)に置いたスクリーンをできるだけ
均一に照明したものを、撮像する。実際には斜め方向から照らすので均一な照明が
難しいこと、位置が無限遠でなく、迷光が入り易いことが、デメリット。近くにあるので
ピンボケ効果で細かい空間的ムラは消しやすいが、それでも特に視野の広い撮像で
は、どうしても傾きのあるフラットになる。
(2)積分球フラット
開口の3倍以上の直径がよいとされている。購入すると高価であるが自作 可能。
積分球は理想に近い均一な輝度分布が得られやすいと言われているが、実際には、
内面反射素材や望遠鏡とのアラインメントの関係で、広視野だと、どうしても傾き易い。
位置が無限遠でないので、撮像時と同一光学系とは言いがたい。
(3)薄明フラット−広視野撮像では最もお勧め−
広視野撮像では、もっとも現実的な解決手段か。薄明時の天頂付近を、天体撮像
時と同一の光学系で撮像する(観測時と同じピントで、同じフィルターで)。
星が写るのを避けるために、できるだけ明るい空を撮るのがよい。だたし、1秒以下
の短時間露出だとシャッタームラの影響が出る可能性があるので、1秒程度の露出時
間がよい。それでも星が写る場合は、望遠鏡を動かしながら多数枚撮像し、メディアン
処理でマスータフレームを得るとよい。
[[http://otobs.org/photometry/shutter.JPG]]
上図左は、0.12秒露出のスカイを1.0秒露出のスカイで割ったもの。かなりのシャッタームラが存在することがわかる。上図右は、0.5秒露出のスカイを1.0秒露出のスカイで割ったもの。0.12秒露出のものと比較すればかなり改善されているが、まだムラは残っている。
下図は、生のスカイフレームである。50枚の1秒露出のスカイフレームのうち、明るい星が写っている全フレームを取り出した。
望遠鏡を振りながら撮像している様子がわかる。この程度明るい星が写り込んでも、中央値処理がうまくいくと星は消える。
[[http://otobs.org/photometry/Sky&Star.JPG]]
なお、左上の1フレームは平均約40000カウント、右下の最後の1フレームは平均30000カウントである。以下の3.の(2)に
書くように、スカイの明るさが変動しても、規格化した後にメディアンをとれば問題は生じない。
(4)スカイフラット(有星領域)
メジアン処理で星が除けるならば、目的の天体を写したライトフレームからフラットを得ることも
可能である。特に光害のある空の下での観測では、ある程度カウント数も得られるし、バック
グラウンドの傾きも一挙に取り除くことができるので、よい方法である。目的の天体を中心にして
視野を少しづつ回しながら撮像しておく。問題点としては、人工照明ほどにはカウント数が稼げな
いことである
(5)暗いスカイフラット(無星領域)
無限遠に置いた均一な照度を持つ光源という意味ではよい方法である。特に視野の狭い
撮像では、星のない領域(暗黒星雲など)を撮像し、フラットフィールドとすることがあるが、
カウント数を稼ぐこと自体が難しいので、良いS/N比のフラットフレームを多数取得すること
が困難である。
そこで、空間周波数の低い成分として無星領域フラットを使い、空間周波数の高い成分とし
てドームフラットを組み合わせて使う方法も利用されているようだ。
ここでは明るい天体の測光、したがって広視野の撮像を扱っているので、広い視野に適した
無星領域は存在しないので、紹介だけに留めておく。
(6)筒先フラット
筒先に置いた拡散板を通った光を撮像する方法。拡散板には、白色アクリル板や
トレーシングペーパとかスーパーの白い買い物袋などを数枚重ねるとか、時には牛乳を
薄めた水を入れた液体フィルター(ミルクフラット)とか、いろいろと工夫がなされる。
照明を当てたドーム(ルーフ)内の拡散板を光源として、さらに筒先フラット(それも
ある程度間隔を置いた複数の透過拡散板から成る構造)を用いれば、それほど広角
視野でなければ、結構よいフラットが得られる
!3.3.3 フラットフィールドの処理
(1)ダークの減算
フラットフィールドを撮像した時と同じ冷却温度と同じ露出時間で、ダークフレームを
数十枚撮像しておく。それらをメディアン(中央値)処理で1枚のダークのマスターフ
レームを作成する。
各フラットフレームからダークのマスターフレームを引き算しておく。
(2)マスターフレームの作成−薄明フラットの場合−
ダークを引き算した数十枚のフラットフレームから1枚のマスターフレームを作成するには、
メジアン処理か3σ除去平均を使うが、ここで問題になるのは、薄明スカイフラットを多数
枚撮った場合、その間に空の明るさが変わることである。
メディアン処理は、多数のフレームで、同じピクセル位置のカウント数の中央の値をとる
のであるから、光源の明るさが変わると中央値付近の少数のフレームしか対象にならず
多数枚撮像した意味がなくなる。
そこで、メディアン処理の前に規格化(normalize)する必要が出てくる。規格化とは、
元の画像を、その画像全体の平均カウント数で割り算することにより、平均カウント数が
1.0になる処理のことである。
(AIP4WINでは、Calibrate->Setup->Standard->Flatframe Connection->
Mormalize Medianを選ぶ)。
こうして最終的に得られたフラットフィールドのマスターフレームの例を下左図に示す。
[[http://otobs.org/photometry/ffMedians.JPG]]
(左)ノーマライズメジアン、(右)ただのメジアン
上の2枚の図は、共に1.0秒露出で撮った薄明スカイフラット50枚を処理したものである。
撮像にあたっては、天頂付近を中心にして望遠鏡を振りながら、明るい星が同一場所に写らないように配慮した。
個々のフレームを調べると、かなり明るい星が写っているフレームが何枚もあるが、中央値処理後は消える。
左図は、規格化して後にメディアンをとったもの。右図は、規格化なしの普通のメディアン処理である。
右図では、空の明るさが変わっているので中央値を取ると、中央付近の明るさを持った少数のフレームの中から
中央値を見つけ出すようになり、S/N比が低下する。さらに、その少数のフレームの中に星が写ったフレームがあると
それにも影響される(右図中の短線ではさまれた部分に星がある)
平均カウント数は、40000カウント前後であるが、Normalize Median処理がうまくいくとバイアスパターンが
見えるまできれいなフレームになっている。
[[http://otobs.org/photometry/ffMean.JPG]]
この2枚のフレームは、メディアン(Normalized Median、左図)とただの平均値(右図)の処理の違いを示す。
平均値処理では、明るい恒星が写っているピクセルの値に、平均値が引きずられているために、50枚の
平均をとってもなお星が消えないで残っている。メディアン処理の有効性を示している。
もちろん3σ以上の信号をノイズとみなして除去した後の平均をとるという処理でもよい
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{{counter}}
天体を写したCCDのライトフレームは、そのままではさまざまな誤差を含んでいて、
とてもそのまま測光するわけにはいかない。
その主な原因をあげると
・ピクセルごとの感度ムラ(極端なピクセルでは、デッドピクセルやホットピクセルとなる)
・光学系の口径食による周辺減光や、ケラレ、メッキムラなどによる大域的な不均一性
・光学系についたホコリやゴミの影(口径比とCCDまでの距離に応じてボケている。
時間的に再現性は期待できない)
・その他
これらの空間的不均一性(ムラ)を一括して補正する方法がフラットフィールド補正である。
!3.3.1.原理
ピクセル位置(x,y)に投影されるべき天球上の真の輝度分布をL_in(x,y) (これを観測
から求めたいのだ)とし、実際のCCDからの出力をL_out(x,y)、 空間的不均一性を一まと
めにして関数 f_f(x,y)で表すと
L_out(x、y)= L_in(x、y) * f_f(x,y) + dark(x,y) + bias(x,y)
であるから、求めるL_in(x,y)は
L_in(x、y)= {L_out(x、y) - dark(x,y) - bias(x,y) }/ f_f(x,y)
で得られる。 bias(x,y)とdark(x,y)は、ダークフレームから得られる(別項参照)。
したがって、現実的な問題は、いかに正確な空間的不均一性関数 f_f(x,y)を求めるかである。
!3.3.2.フラットフィールドの取得方法
理想的なフラットフィールドは、均一な明るい面光源を無限遠に置き、それを
天体撮影時と同時に、同じ光学系で、同じ天球方向で撮像することで得られるが、
これは不可能である。
で、現実にはやむなく以下に述べる方法でフラットフィールドを得る。が、特に広視野撮
像では、どうしても問題が出やすい。
撮像にあたっては、多数枚(10枚から100枚程度)写し、それらからマスターフラット
フレームをメジアン(中央値)か3σ除去平均などで作る。詳しくは3.フラットフィールドの処理を参照
露出の目安は、S/N比を上げるために、カウント数が10000以上で、できるだけCCDの
ダイナミックレンジの上限に近い値となるようにする。
(1)ドームフラット
ドーム内(に限らず、要は望遠鏡の近くという意味)に置いたスクリーンをできるだけ
均一に照明したものを、撮像する。実際には斜め方向から照らすので均一な照明が
難しいこと、位置が無限遠でなく、迷光が入り易いことが、デメリット。近くにあるので
ピンボケ効果で細かい空間的ムラは消しやすいが、それでも特に視野の広い撮像で
は、どうしても傾きのあるフラットになる。
(2)積分球フラット
開口の3倍以上の直径がよいとされている。購入すると高価であるが自作 可能。
積分球は理想に近い均一な輝度分布が得られやすいと言われているが、実際には、
内面反射素材や望遠鏡とのアラインメントの関係で、広視野だと、どうしても傾き易い。
位置が無限遠でないので、撮像時と同一光学系とは言いがたい。
(3)薄明フラット−広視野撮像では最もお勧め−
広視野撮像では、もっとも現実的な解決手段か。薄明時の天頂付近を、天体撮像
時と同一の光学系で撮像する(観測時と同じピントで、同じフィルターで)。
星が写るのを避けるために、できるだけ明るい空を撮るのがよい。だたし、1秒以下
の短時間露出だとシャッタームラの影響が出る可能性があるので、1秒程度の露出時
間がよい。それでも星が写る場合は、望遠鏡を動かしながら多数枚撮像し、メディアン
処理でマスータフレームを得るとよい。
[[http://otobs.org/photometry/shutter.JPG]]
上図左は、0.12秒露出のスカイを1.0秒露出のスカイで割ったもの。かなりのシャッタームラが存在することがわかる。上図右は、0.5秒露出のスカイを1.0秒露出のスカイで割ったもの。0.12秒露出のものと比較すればかなり改善されているが、まだムラは残っている。
下図は、生のスカイフレームである。50枚の1秒露出のスカイフレームのうち、明るい星が写っている全フレームを取り出した。
望遠鏡を振りながら撮像している様子がわかる。この程度明るい星が写り込んでも、中央値処理がうまくいくと星は消える。
[[http://otobs.org/photometry/Sky&Star.JPG]]
なお、左上の1フレームは平均約40000カウント、右下の最後の1フレームは平均30000カウントである。以下の3.の(2)に
書くように、スカイの明るさが変動しても、規格化した後にメディアンをとれば問題は生じない。
(4)スカイフラット(有星領域)
メジアン処理で星が除けるならば、目的の天体を写したライトフレームからフラットを得ることも
可能である。特に光害のある空の下での観測では、ある程度カウント数も得られるし、バック
グラウンドの傾きも一挙に取り除くことができるので、よい方法である。目的の天体を中心にして
視野を少しづつ回しながら撮像しておく。問題点としては、人工照明ほどにはカウント数が稼げな
いことである
(5)暗いスカイフラット(無星領域)
無限遠に置いた均一な照度を持つ光源という意味ではよい方法である。特に視野の狭い
撮像では、星のない領域(暗黒星雲など)を撮像し、フラットフィールドとすることがあるが、
カウント数を稼ぐこと自体が難しいので、良いS/N比のフラットフレームを多数取得すること
が困難である。
そこで、空間周波数の低い成分として無星領域フラットを使い、空間周波数の高い成分とし
てドームフラットを組み合わせて使う方法も利用されているようだ。
ここでは明るい天体の測光、したがって広視野の撮像を扱っているので、広い視野に適した
無星領域は存在しないので、紹介だけに留めておく。
(6)筒先フラット
筒先に置いた拡散板を通った光を撮像する方法。拡散板には、白色アクリル板や
トレーシングペーパとかスーパーの白い買い物袋などを数枚重ねるとか、時には牛乳を
薄めた水を入れた液体フィルター(ミルクフラット)とか、いろいろと工夫がなされる。
照明を当てたドーム(ルーフ)内の拡散板を光源として、さらに筒先フラット(それも
ある程度間隔を置いた複数の透過拡散板から成る構造)を用いれば、それほど広角
視野でなければ、結構よいフラットが得られる
!3.3.3 フラットフィールドの処理
(1)ダークの減算
フラットフィールドを撮像した時と同じ冷却温度と同じ露出時間で、ダークフレームを
数十枚撮像しておく。それらをメディアン(中央値)処理で1枚のダークのマスターフ
レームを作成する。
各フラットフレームからダークのマスターフレームを引き算しておく。
(2)マスターフレームの作成−薄明フラットの場合−
ダークを引き算した数十枚のフラットフレームから1枚のマスターフレームを作成するには、
メジアン処理か3σ除去平均を使うが、ここで問題になるのは、薄明スカイフラットを多数
枚撮った場合、その間に空の明るさが変わることである。
メディアン処理は、多数のフレームで、同じピクセル位置のカウント数の中央の値をとる
のであるから、光源の明るさが変わると中央値付近の少数のフレームしか対象にならず
多数枚撮像した意味がなくなる。
そこで、メディアン処理の前に規格化(normalize)する必要が出てくる。規格化とは、
元の画像を、その画像全体の平均カウント数で割り算することにより、平均カウント数が
1.0になる処理のことである。
(AIP4WINでは、Calibrate->Setup->Standard->Flatframe Connection->
Mormalize Medianを選ぶ)。
こうして最終的に得られたフラットフィールドのマスターフレームの例を下左図に示す。
[[http://otobs.org/photometry/ffMedians.JPG]]
(左)ノーマライズメジアン、(右)ただのメジアン
上の2枚の図は、共に1.0秒露出で撮った薄明スカイフラット50枚を処理したものである。
撮像にあたっては、天頂付近を中心にして望遠鏡を振りながら、明るい星が同一場所に写らないように配慮した。
個々のフレームを調べると、かなり明るい星が写っているフレームが何枚もあるが、中央値処理後は消える。
左図は、規格化して後にメディアンをとったもの。右図は、規格化なしの普通のメディアン処理である。
右図では、空の明るさが変わっているので中央値を取ると、中央付近の明るさを持った少数のフレームの中から
中央値を見つけ出すようになり、S/N比が低下する。さらに、その少数のフレームの中に星が写ったフレームがあると
それにも影響される(右図中の短線ではさまれた部分に星がある)
平均カウント数は、40000カウント前後であるが、Normalize Median処理がうまくいくとバイアスパターンが
見えるまできれいなフレームになっている。
[[http://otobs.org/photometry/ffMean.JPG]]
この2枚のフレームは、メディアン(Normalized Median、左図)とただの平均値(右図)の処理の違いを示す。
平均値処理では、明るい恒星が写っているピクセルの値に、平均値が引きずられているために、50枚の
平均をとってもなお星が消えないで残っている。メディアン処理の有効性を示している。
もちろん3σ以上の信号をノイズとみなして除去した後の平均をとるという処理でもよい
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